着物の染の技法には、
手描きのほかに型紙を使って染める型染めがあります。
その型染めも、
染の技法や型紙の種類に特徴があり、
手描き友禅などと同じように、
京都、加賀、東京の型染めは有名です。
型染めとはどのようなものか、
京型小紋、加賀小紋、江戸小紋、
そして、越後型の型染めの、
技法や特徴についてまとめています。
きものの染かたの技法 型染めとは
型染めとは、
染色用具の一つである型紙を生地の上に置いて染める技法です。
型染めは、一枚の型紙で同じ模様を何十回、何百回と染められますし、
使う色を替えることで、まったく雰囲気が変わってきますから、
手描きの着物と違って量産が可能な技法です。
しかし、一枚の着物が一枚の型紙で染められるということは稀で、
型染めもまた技術の粋を集めた染色方法なのです。
型染めの起源は、鎌倉時代の染革と言われています。
江戸時代になり、
武士の裃(かみしも)が型紙を使って染められるようになり、
次第に普及していきました。
型紙は、楮(こうぞ)から作った和紙を、柿渋で二枚~四枚張り合わせ、
さらに表面に柿渋を引いて乾燥させて作り、
それにさまざまな模様を彫ります。
その型紙は江戸時代から、
三重県の伊勢地方で作られるものが最高級品と言われ、
伊勢型とか伊勢型紙と呼ばれています。
型紙の種類には、
染める模様の大きさによって小紋型、中型、大型などがあり、
型紙の大きさも違います。
現在は中型や大型の型紙で染めた大きな文様も小紋と言いますが、
もともと小紋とは、小紋型で染めた小さい文様のことを言いました。
型紙は模様によって何枚も組み合わせて使います。
色数の多い模様には二十枚、三十枚と使い、
一つの着物に百枚以上もの型紙を使う場合もあります。
型紙を使った染め方にはいろいろあります。
型染めにはさまざまな技法があり、
大きく分けると、三通りになります。
型友禅のように、型紙の上からヘラで色糊(写し糊)を塗っていく方法と、
更紗のように、型紙の上から丸刷毛で染料を摺込む方法、
江戸小紋のように、型紙の上に防染糊を置いて、模様を白く抜く方法です。
したがって型紙で模様の色を染める型友禅や更紗などは、
模様の色数によって、何十枚もの型紙が必要になってきます。
型紙を使って模様を染める型染めには、
京型小紋、加賀小紋、東京染小紋、江戸小紋などがあります。
きものの染かたの技法 京型小紋
京型小紋は、何枚もの型紙を使って染められ、
手描きの京友禅と同じ雰囲気を持つ華やかな着物です。
京型小紋の型紙の材料は、和紙と柿渋で作られていて、
寸法の長い友禅型紙を用います。
少なくとも図案の色数と同じ枚数だけ型紙が必要なので、
型紙を2~30枚、ときには100枚以上も使うことがあります。
疋田型や摺込み型など、特殊な型紙もあり、
これらを組み合わせて、京風の柄ゆきを染めます。
★京型小紋の伝統
京型小紋の起こりは、明治時代。
京都の老舗メーカーの『千總』の技師がヨーロッパに学んだあと、
写し糊(化学染料と糊を混ぜた色糊)を開発し、
一色一枚の型紙が作られるようになってからのことです。
華やかで多彩な京型小紋は、たちまち全国の女性を魅了し、
明治時代の後半から昭和の初期まで、
若い女性の晴れ着と言えば京型小紋(京友禅小紋)とされたほどでした。
花車、薬玉、乱菊、御簾、投扇など、御所風なものが古典模様。
薔薇、カトレアなどの洋花や、
シャンデリアなどのフランスプリントの図案が新模様です。
新模様と言われるものが特に流行し、
『ハイカラでモダンな』という形容が京型小紋に付けられました。
★京型小紋はよそゆきの小紋
晴れ着としての伝統を持つ京型小紋は、
今もよそゆきの小紋です。
お正月やクラス会、観劇やパーティー、七五三などに相応しい着物で、
子どもから大人まで幅広い年代に向く色や模様があるのも特徴です。
★京型小紋から京型友禅へ
京型小紋は、よそゆきの小紋ですが、
現在ではさらに型紙を工夫して、
小紋以外の着物も型染めで染められています。
肩で柄を振り分けて、
前後で模様がさかさまにならないように染めた付け下げ着尺のほか、
振り袖や訪問着もあります。
豊富な色柄で、華やかさを競い合う京の型染めの着物は、
京型友禅とも呼ばれています。
きものの染かたの技法 加賀小紋
加賀友禅のふるさと、
金沢を中心とする地方で染められる型小紋が加賀小紋です。
江戸小紋と同じ手法で染められる一色染めの小紋と、
京型小紋と同じ手法で染められる多彩な小紋があります。
加賀小紋の起源は、加賀百万石 前田家の武士の裃柄です。
この加賀小紋は、江戸小紋と同様に伊勢型紙を用いた細かい一色染めです。
やがて武士の妻女や商家の人たちにも普及して、
柄が大きめになり柄数も増えていったといいます。
女性用の小紋には草木や花柄などが染められ、
江戸小紋より優しい雰囲気が特徴です。
明治時代になって、
京都で型友禅が写し糊(色糊)を使って染められるようになると、
それにならって加賀友禅の色柄を基調にした多彩な加賀小紋も生まれました。
今では小紋だけではなく、
付け下げや振袖、訪問着にも型染めされるようになり、
きもの地も縮緬や綸子だけでなく、白山紬や牛首紬にも染められ、
趣味の着物として愛好されています。
きものの染かたの技法 江戸小紋
江戸時代の京が手描きの友禅の町であるとするなら、
江戸は型染めの町でした
和紙を柿渋で貼り合わせた伊勢型紙を白生地の上に置いて、
模様の部分を糊で防染し、地色を一色で染めて糊を落とすと、
糊の部分が白い模様になります。
江戸時代から続くこの技法で、
今も東京で染められている小紋を江戸小紋と呼んでいます。
東京染め小紋という名前で伝統的工芸品に指定された小紋の中で、
この江戸小紋は大きな位置を占めています。
江戸時代、大名や武士の裃用として、
遠目には無地に見えるような非常に細かい柄の小紋が染められました。
将軍や大名は各自専用の模様を定め、
それを留柄(ほかの人が使うことを禁じた模様)としました。
やがて元禄時代になると、遊び心のあるやや大きい型染めが、
町家の男女のお洒落着として用いられるようになりました。
江戸小紋という名前は、
この型染めの技術を伝承してきた小宮康助氏が、
昭和三十年に人間国宝(重要無形文化財保持者)に、
認定されたときにつけられた名前です。
『一枚の型紙、一色の染め』である江戸小紋は、
型紙を彫るのも染色も、熟練の技が駆使されていて、
そのシンプルさと精緻な技術で私たちを魅了します。
型紙の彫り方には、
突き彫り、錐彫り(きりぼり)、引き彫り、道具彫りの、
四種類の彫り方がありますが、
ことに裃柄のような細かい模様(極型)を型紙に彫るのは至難の業で、
五年、十年と修行を積んで初めてできるようになります。
また、型紙の長さは45㎝程ですから、一反の着尺(約11.5m)を染めるには、
何十回も型紙を送って染めなければなりません。
極型の江戸小紋を一分の狂いもなく送って糊付けするには、
熟練した技術が必要です。
このため、伊勢型紙の彫り師や江戸小紋の染め師には、
人間国宝に認定された人が何人もいます。
裃が原点だった江戸小紋は、
当初から家紋をつけて用いられた小紋でした。
その伝統は今も健在で、極鮫、極霰、極松葉などの、
裃小紋(極型)は高い品格があり、
紋をつけて略礼装の着物として用います。
一方、遊び心のあるやや大きめの柄ゆきは、
粋なお洒落着として楽しみます。
また、絵羽柄のように染めた訪問着なども染められています。
きものの染かたの技法 越後型
越後地方の藍木綿に端を発する越後型は、
一色染の大きな柄が特徴です。
今から六~七十年ほど前、民芸運動が盛んだったころ、
かつて越後で使われていた型紙(越後型)が発掘されました。
そのあと、型紙のふるさと伊勢で復元され、
この越後型を使って染めた着物も越後型と通称しています。
模様の特徴は、力強くはっきりとした彫り方で、
牡丹や菊、唐草や鶴などを、一幅に三~四模様置かれています。
単色の色使いは江戸小紋と同じですが、
柄の大きさや模様が江戸小紋とは違った雰囲気を持っています。
型紙が復元されてからは絹や紬地に多く染められるようになり、
都会派の趣味の着物として愛好家に好まれています。
あとがき
今、伊勢型紙って人気がありますよね。
型紙で染められた着物ではなくて、
型紙そのものが評価されています。
精緻な技術で彫られた型紙は、
型紙自体が芸術品と言ってもいいほど美しいものです。