琉球絣は沖縄の伝統工芸品です。
琉球王朝時代から伝わる『琉球かすり』のふるさと、
南風原町をご紹介します。
南風原町に琉球絣が伝わってきた歴史や、
琉球絣がこの地で織られるようになった経緯、
爽やかな涼感をさそう幾何学模様の図柄など、
絣模様の種類をお伝えします。
そして、琉球絣の制作工程の手順についてもまとめています。
琉球絣は沖縄の伝統工芸品制作工程の手順
絣の伝統柄を現代感覚で織り上げた琉球絣は、
沖縄の伝統工芸品として伝え継がれています。
染織の宝庫と言われる沖縄には、
個性的な織りや染めがたくさんありますが、
琉球絣が織られている町は、南風原町といいます。
琉球王府時代から絣の主産地として知られた南風原は、
たえまぬ技術導入・改良と職人たちの努力を、営々と積み重ね、
現在では「琉球かすり」のほとんどが南風原町でつくられています。
『南風原町(はえばるちょう)』何とも、沖縄らしい心地よい名前です。
南風原は沖縄本島の南部にあり、
那覇市内から車で15分ほどのところで、のどかな良い町です。
昔からこの辺りでは絣が織られていたそうで、
現在もこちらの地域だけで、沖縄の絣生産量の90%以上を占めるといいます。
まさに『絣の里』なのです。
その証拠に、琉球絣事業協同組合で頂いたパンフレットには、
『かすりの道散策マップ』が載っていました。
『かすりの道』の周辺には、
琉球絣に携わっている人たちの工房が点在しているので、
案内板の通りに進めば、琉球絣の香りにふれながら、
町を散策できるというわけです。
琉球絣事業協同組合
住所:沖縄県島尻郡南風原町字本部157
電話:098-889-1634
営業時間:9:00~17:30
琉球絣の歴史と模様
素朴で繊細な絣の技法は、もともとインドから始まり、
東南アジア各地に広まったと伝えられています。
沖縄にどのようにして絣が入ってきたのかは不明なようですが、
14~5世紀頃の交易によってという説が有力です。
その頃は琉球王朝の時代で、
中国や日本、朝鮮、東南アジアなどと、盛んに交易をしていました。
琉球絣は、
沖縄王府に収める貢納布(こうのうふ)として織られるようになります。
さまざまなものが沖縄にもたらされましたが、
絣の技術もその中の一つと考えられているようです。
貢納布は、首里王府の絵師がつくったデザイン集である
御絵図帳(みえずちょう)の図柄を織物に完成させたものです。
デザインや染色、
織物技術は発展し琉球絣の製造には島の女性たちが従事していました。
沖縄にやってきた絣は、
沖縄の気候風土の中で独特の絣が作られるようになり、
飛躍的に発展しました。
琉球絣はそれ以後、中国・日本や東南アジアの影響を受けながらも、
琉球の気候・風土にマッチした独自の絣が沖縄各地でつくられ、
その絣が、海を越え、
薩摩絣、久留米絣、米沢琉球絣、伊予絣など日本の絣のルーツとなりました。
明治時代になると商品として琉球絣が市場に出回り、
大正時代から昭和時代の初めごろには沖縄県は多くの織子を養成しました。
その後、絣織物の技術者の移住などにより産地としての基盤が固っていき、
民間の工場も設立され沖縄県は絣の産地へと発展を遂げました。
第二次世界大戦が起こると資材の供給が止まり、
織物工場は閉鎖されます。
産地は戦争の激戦地となり、
多くの生産技術者の命と生産設備が奪われました。
戦後、琉球絣は先祖から受け継いだ伝統に現代の感覚を加えて復活し、
魅力的な多種類の模様と豊かな色柄で、
様々な服飾品やインテリア用品が作られています。
その最大の魅力は、
なんと言っても独創的な絣の模様でしょう。
工房でいろいろな着物や帯を見せてもらいましたが、
その模様の美しさ、モダンさに感動しました。
具体的な模様はわからないのですが、
どこか懐かしい感じがします。
琉球絣の絣模様はその数、約600種もあるそうです。
琉球王朝の頃から伝わる『御絵図帳』と言う図案集があり、
それをもとに職人さんたちがアレンジしてオリジナルを作り上げます。
そのため、似ているようでも、
全く同じ色柄と言うものはほとんどないということです。
しかも、モチーフは、鳥や植物、波、水、お金など、
沖縄の自然や生活道具から生まれたものだそうです。
★琉球絣 模様の種類
ハナアーシー
端と端を合わせる、経て緯糸で表現した花模様
げんこつ
テージクンビーマ げんこつを二つ並べたところ
五つ星
イチチブサー 五つ並んだ星のデザイン
鳥
トゥイグァー 小さな鳥をイメージ
琉球絣の織物は、
緯糸を経糸の間に投げ込んでおっていく昔ながらの技法で、
1日せいぜい1~2メートルぐらいずつ丹念に織り上げていきます。
出来上がった着物や帯が親しみやすく感じられるのは、
こうした人々の暮らしの匂いが感じられるからかもしれません。
琉球絣の製作工程
琉球絣の製作工程の主な流れ
生糸
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精錬
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図案
琉球絣(りゅうきゅうかすり)は、図案に合わせて織っていきます。
糸を括って染めてから、織るという手順です。
図案は伝統的な絣の柄を基本に大きさや配置を変えたり、
いくつかの図を組み合わせて作成します。
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整経
元になる図に合うように、必要な長さの経糸と緯糸を揃えていきます。
織りの工程で発生する縮みなども計算して、
糸の長さを決めるのがポイントです。
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糊付け
琉球絣は、美しい絣模様がずれないように、
下準備に時間をかけ、糸を糊で固めます。
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絣括り
糊付けをして張って伸ばした経糸に、「真芯掛け」という作業を行ないます。
「真芯掛け」は経絣(たてかすり)を括る技法です。
図案に沿って絣の種類に合わせて経糸の本数を揃えて、
上下に引きます。
括りは手作業のため、大変な力作業です。
図柄に沿って絣糸を作成しておき手で括り、
絣の模様のズレ防止に経糸を糊付けします。
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染色
充分に糊を落としてから染色作業です。
主にグール(サルトリイバラ)・テチカ・琉球藍などの、
植物による染料を使って、多彩に染色します。
化学染料は染色機を使用し、植物染料は伝統的な鍋染めです。
染色した後、再度糊付けをして張り、伸ばします。
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絣解き
絣の括り糸を解いていき、
図案の通りに絣を配列して張って伸ばしていきます。
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筬通し
図案に沿って、絣糸と地糸を割り込んで筬(おさ)に通します。
筬は、織機の部品の一つで、経糸の位置を整えて打込んだ緯糸を押し、
密度を濃く織っていけるように打ち込むための道具です。
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巻き取り
糸のもつれや、弛みが生じないように糸を巻いていきます。
経糸、他糸、絣糸を同時に巻きながら、
ブーブーと呼ばれる「ちぎり箱」へと巻いていく作業です。
近年は動力を用いて巻き取り工程の時間短縮を図っています。
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綜絖
琉球絣では既製の綜絖は使わず、経糸に糸をかけて綜絖作業をします。
綜絖(そうこう)は織機の一部品で、
緯糸を通すために杼 (ひ)の通る道を作る為に、経糸を動かす用具です。
撒き終えた糸を左から順序よくすくい、
割竹を使用して綜絖掛けを行います。
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織り
琉球絣の織りは熟練した職人による手作業です。
木製の高機(たかはた)を使って、
手なげ杼(ひ)に緯糸をセットして絣の柄を合わせながら織ります。
織りが完成したら、水洗いをした後、
湯のし・幅だしの作業を経てから充分に干して完成です。
↓
検品
図案を元に糸を括って染め、織るという手順で、
琉球絣は出来上がります。
文字で書くととても簡単なようですが、
約十六もの細かい工程があり、
一反を織り上げるのに約一か月の時間がかかります。
それぞれの工程は専門の職人さんたちが分業で行っていて、
力の必要な絣括りや染めは男性の仕事、
整経や織りは女性が中心となって行われます。
★『糊付け』
家の裏の畑で、長い糸を張り、
何やら仕事をしている人がいたので行ってみると、
整経した経糸に糊を付けているということでした。
『糊付け』と言われるこの工程は、
絣の柄がずれないように、糸を糊で固める作業なのです。
その場所は、糊付け専用の作業場で、
空いているときは誰もが利用していいことになっているそうです。
長い経糸に糊を付けるには、広い場所が必要なのです。
同じ仕事をする者どうし助け合っている、
のどかな様子が感じられます。
★『絣括り』
絣括りは、模様になる部分を木綿糸でしっかりと括ります。
絣を括るのは男性の仕事
糊付けをして伸ばした経糸は、絣括りの職人さんのもとへ運ばれ、
図案を見ながら、絣の種類ごとに経糸をそろえ、
模様の部分を一カ所ずつ手で括っていきます。
これを『手結い(てゆい)』と言います。
次々に結んでいくので、簡単そうに見えますが、
木綿糸を20本も束ねて結ぶため、かなりの力が必要です。
★染色
紺色は琉球藍で染めます。
絣括りの後、糊を落としてから染めに入ります。
琉球絣の色は、意外に華やかで、様々な色がありますが、
やはり基本となるのは藍色です。
この色を染めるには沖縄本島北部で栽培している琉球藍を用います。
土に埋め込まれた藍甕(あいがめ)に糸を入れ、
10回以上も染め重ねて、色に深みを付けていきます。
植物のほとんどが染料になるそうで、
茶色は芭蕉の葉、グリーンはサトウキビの葉を使うこともあるそうです。
★織り
昔ながらの木製の高機で織ります。
細かい織りの工程を経て、美しい絣模様が仕上がります。
染が終わると、再び糊付けをして張り伸ばします。
糊落としと染色の時に乱れた糸を整えるためです。
この後、絣の括り糸を解きますが、今度は絣の模様を固定するため、
三回目の糊付けをします。
こうして仕上がった糸は、ようやく織り手のもとへ運ばれ、
図案を見ながら経糸を筬(おさ)に通し、巻き取っていきます。
この『巻き取り』の作業は、琉球絣ならではのもので、
いろいろな試行錯誤を繰り返しながら、
ようやく現在の動力化に落ち着いたといいます。
手織りされた反物は、湯のしをして幅を整えると完成です。
これを組合の検品所へ持って行き、
検査を受けなければいけません。
検査のチェック項目は、長さや幅、キズや織り密度などです。
時には不合格のものもあり、
素人にはどこに問題があるのかわかりませんが、
プロの目はしっかりとポイントを押さえているようでした。
検品に合格すると、証紙シールが貼られ、
商品として販売されることになります。
★琉球絣の楽しさ
年代を問わずに着られるシックな琉球絣は、
帯や小物によってイメージが変わります。
その日の気分で色半衿や色足袋を合わせて、
ぐっとカジュアルに装うのも楽しいですね。
あとがき
絣の着物は素朴で暖かく、
華やかさは少ないかも知れませんが、
味わいがあり、
着ている人に確実な満足感を与えてくれます。
普段着としてのさり気ない装いが、
日常の生活の中に輝きを齎してくれます。
絣の着物がサラッと着こなせる“きもの人”になりたいです。