西陣織の歴史や、
西陣という名前の由来についてご紹介します。
その西陣で織られる西陣織の商品の種類と特徴や、
帯が出来上がるまでの工程を、
簡単にまとめました。
西陣織の歴史と名前の由来は何?
西陣織のふるさと、
西陣の町は京都市の北西部にあります。
住所に『西陣』とつく地名はなく、
北は北大路通、南は丸太町通り、東は烏丸通、西は西大路通りの囲まれた、
約3平方キロメートルのエリアが一般的に『西陣』と呼ばれているところです。
この地域には西陣織に関連したあらゆる人たちが集まり、暮らしています。
平安時代以前からこの町では、
織物が本格的に行われていました。
宮廷の織物を担当していた“織部司(おりべのつかさ)”が、
織り手を集め、技術の高い織物を織り出したのが始まりと言われています。
中国から伝わった技術などを取り入れ、
盛んに高級な綾織りや錦織、唐織などが織られていました。
それらは衣装としてだけではなく、
寺院の装飾用としても用いられていました。
室町時代、応仁の乱によって、京都の町は炎に包まれ、
織物どころではなくなりましたが、
平和が訪れると職人たちはまた京都に戻ってきて、
織物を再開しました。
その場所が、西軍の陣地の跡地あたりであったことから、
『西陣』という名前が付き、
そこで織られる織物を総称して『西陣織』と呼ばれるようになったのです。
その後も西陣は、大火や奢侈禁止令、大凶作、東京遷都など、
数々のダメージを受けてきましたが、
いつも見事に復活を遂げてきたのです。
明治時代になると、ヨーロッパからジャガード機を導入し、
積極的に技術の革新を行ってきました。
一方で、伝統的な手織りの技術も大事にし、
さまざまな織物を作り続けています。
西陣織の商品の種類と特徴は何?
西陣は昔と今が共存する町で、
散策していると、古い建物の中に、モダンなギャラリーやショップが、
ひょっこり顔をのぞかせますが、新旧どちらもが西陣の現在の顔なのです。
西陣では、帯や着物のほかに、能装束や草履・バッグなどの生地、
ネクタイや表具、法衣など、様々な織物が作られています。
いずれも、糸を染めて模様を織り出しますが、
その工程のほとんどが分業化され、
熟練した職人さんの手によって行われています。
現在、西陣織としての織り技法が伝統工芸品の指定を受けているものは、
「綴」「経錦」「緯錦」「緞子」「朱珍」「紹巴」「風通」「捩り織」「本しぼ織」「ビロード」「絣織」「紬」の12品目です。
●帯の職人さんの技法
・「綴」
緯糸だけで文様を表現するのが綴れです。
爪かきという独特の技法で緯糸を一本ずつ織り込んで行くため、
熟練した職人でも一日に数センチしか織れないこともあります。
・「経錦」「緯錦」
何色もの色糸を使って美しい織り文様を作り出すのが錦の技法です。
綾織りの生地に、金・銀糸や箔などをふんだんに使って文様を織る、
『糸錦』は、現代の錦を代表する技法です。
・「唐織」
色とりどりの色糸を使い、刺繍のように縫い取りで柄を織り出したのが唐織です。
立体感にあふれ重厚な雰囲気を持っています。
・「箔使い」
和紙に漆を敷き、その上に金銀箔を貼り付けた物を、
糸のような細さに裁断し、一本ずつ織り込んでいくのが箔使いの技法です。
・「紹巴」
強く撚りをかけた糸を使って、繊細な地紋を作り出す織物です。
帯地にすると軽く仕上がるのが特徴です。
・「すくい」
杼(ひ)という織り道具を使って、
経糸をすくうようにして文様を織り出す技法です。
・「紬」
真綿から紡いだ紬糸を使って、
ざっくりとした風合いを出した織物です。
・「絽」「紗」「羅」
いずれも夏用の帯に用いられる技法です。
・「刺繍」
帯には刺繍で文様を表したものもあります。
手仕事で仕上げられたものは、ひと柄ごとに異なった趣を持っています。
・「染め」
手描き友禅・型友禅・ろうけつ染め・絞り染めなど、
さまざまな染めの技法が用いられています。
西陣織の帯の製作工程とは?
西陣織の制作工程は、
①企画・製紋
②原料の準備
③機の準備
④織り
⑤仕上げ
と、大きく5つに分けることができます。
企画・製紋
まず、
①の企画・製紋では、
織物のデザインを考え、
何色の糸をどのように組わせて模様を表すのかを決めます。
ここには、模様を考える人、その図案を元に織物の設計図を作る人、
その設計図を織機に伝えるデータを作る人などが関わってきます。
織物は布に模様を描いていく染め物とは違って、
経糸と緯糸の組み合わせ方で模様を表現するもので、
こうして織られる織物を総称して『紋織物』といいます。
織物の設計図は『紋意匠図』と呼ばれ、
図案の模様(正絵しょうえ)を方眼紙に拡大して描きます。
その際、経糸で表す部分と緯糸で表す部分を、
方眼紙のマス目ごとに塗り分けていくのです。
マス目を塗られていく絵の具の色がきれいなので、
つい見とれてしまいますが、
この作業は、絵心と織りの知識がなくてはできない仕事です。
設計図を元に織るのですが、これを機(はた)に伝えるために、
『紋紙』が必要です。
かつては短冊形のボール紙に、ポツポツと穴をあけて、
機に指令を送る仕組みのものが主流でしたが、
『紋紙フロッピー』となり、
今ではコンピューターで『紋意匠図』をデータ化しています。
メカ式ジャカードが電子化されるのは世界的潮流で、
海外では電子ジャカードが普及する中、
西陣では、
メカ式ジャカードのデータ読み取り部のみを電子化するダイレクトジャカードで、
ダイレクトジャカードは、ほぼ日本のみで使用されています。
西陣織はすべてをコンピューター任せというのではなく、
そこには細かい技術的な必要なので、
やはり熟練した織りのプロの力が深くかかわっています。
原料の準備
②の織物の原料を準備する工程では、
原料となる白い絹糸を扱う糸屋さん、
それを染める染め屋さんの担当です。
西陣織は上質の絹糸で織られます。
はるか昔、京都でも絹糸が作られていたそうですが、
現在では国内外の養蚕地から絹糸を仕入れています。
糸屋さんにはたくさんの絹糸が白く輝いて織られるのを待っているようです。
絹糸は撚りをかける前の原糸で、
経糸・緯糸・縫い取り糸(模様を出すための糸)など、
用途によって撚りの掛け具合が違います。
撚りの回数や撚り加減など、
機屋さんの指示に従って、必要な糸の準備をします。
糸が揃ったら、次は染屋さんへ運ばれます。
こちらの仕事も、
機屋さんの注文通りの色に染めなくてはなりません。
同じ色でも見る場所によって微妙に違ってくるので、
京都では、『中庭の北側で見た色を基準にする』
という言い伝えがあるくらいで、
染屋さんは機屋さんと同じ照明を使って染めているところもあるのです。
ここは長年培った職人の感がものをいうところで、
微妙な色の違いをきっちり合わせて、染める染料を作っていきます。
そして、染めに入ったら、染めむらが出来ないように、
常に糸を動かせながらのスピード感ある仕事です。
優美な西陣織の帯には、緯糸に金箔や銀箔が織り込まれているのも、
特徴の一つです
その箔糸は箔屋さんが受け持ちます。
こちらも工程のグループで分けるとすれば、
②の糸の準備に入ります。
和紙に接着剤の漆を均一に塗り、
金箔や銀箔、色箔などを貼り付けます。
それを0.数ミリといった細い糸状に裁断して緯糸を作ります。
織物は経糸と緯糸を組み合わせることで出来上がりますが、
織り始めるまでにはそれぞれの糸に下準備が必要になります。
なかでも経糸は、織物の幅と長さに合わせて、
最初にセットしなくてはなりません。
西陣織の袋帯の場合、1000本~6000本以上の経糸が使われ、
この経糸の準備を『整経』といいます。
大きなドラムに糸を巻き、
さらに“千切”という胴に巻き取る作業です。
機の準備
次に③の織るための準備に入ります。
巻き取られた経糸は、綜絖屋さんへと運ばれます。
『綜絖』とは機械の装置でもあり、作業の名前でもあります。
経糸と緯糸が織られていくときに、
経糸が引き上げられ、その間を緯糸が通ります。
ところが、織りによって模様を表現していく紋織の場合は、
経糸の上げ下げの指示がとても複雑で、
綜絖は、経糸の一本一本に、その指示を伝える装置なのです。
一本の帯に6000本の経糸が必要なら、
同じ数だけ綜絖が必要で、
6000本の経糸を綜絖に通さなければいけないのです。
織り
④の織の工程
西陣織の代表的な錦織や唐織などはジャガード機を使って織られます。
ジャガードという機織りの機械は、明治時代にフランスからやってきたもので、
それまで二人がかりで織る“空引機(そらびきばた)”という機械を、
使っていた西陣にとっては画期的なものでした。
ジャガード機は空引機を行っていた人間に代わり、
紋紙を使って経糸の上げ下げを制御するシステムです。
高機のジャガード機を使うようになって、
西陣織は量産できるようになりました。
また、ジャガード機を使わない『綴れ織』の織物は、
綴れ機という専用の織機を用います。
独特の“爪かき”で模様を表現していく手法は、
西陣織の中でも歴史があります。
織り出された模様は裏側に出てくるので、
織り手さんは小さな鏡を置き、模様を見ながら織り進めます。
仕上げ
⑤の仕上げを経て商品となります。
商品には西陣織である証明に、西陣織工業組合が発行する、
メガネ型の証紙が付けられます。
この証紙に、生産者番号・帯地の種類・繊維の組成などを、
表示しています。
生産者の責任を明確にするとともに、
西陣のデザインと技が作り上げた西陣の製品であることを証明しています。
さらには『西陣』『西陣織』『帯は西陣』などは、
西陣織工業組合の登録商標となっています。
西陣の帯を購入された時は、
仕立てた時の残布と、メガネ型の証紙を一緒に必ず保管しておいてください。
トラブルの際に大切な資料となります。
あとがき
最近は西陣の町を歩いても、
『ガッチャンガッチャン』といった織り機の音が聞こえなくなりました。
けたたましく鳴っていた音がピタッと止まると、
「あーもう、お昼なんやねえ~!」って言って、
お昼ご飯の用意をしたものでした。