黒留袖は祝儀に用いるフォーマルな着物です。
現代では、
黒留袖は、結婚式や披露宴に出席する、
新郎新婦の母親や、お仲人夫人、
そして親族の既婚女性が着用する着物となっていますが、
黒留袖は、既婚女性の第一礼装ですので、
既婚女性が儀式などの式典や授賞式などに出席する場合
最もふさわしい正装です。
ただし、宮中では黒は喪の色とされているため、
黒留袖は用いられず色留袖が用いられています。
一般の人でも叙勲などで宮中に参内する場合は、
色留袖を着用するのが慣例になっています。
黒留袖とはどんなきもの?
黒地の着物の背中心と両胸、両袖の外側の五か所に、
染め抜きの日向紋を配し、
上半身は黒無地で、裾に模様を描いた着物のことです。
留袖とは、その昔、十八歳になった時、または結婚した時に、
それまで着ていた振袖の長い袖を切って短くしました。
この風習を『留袖』といい、
大人の女性が、ごく普通に着る着物を指していました。
しかし、十九世紀初め頃に、
黒地に染め抜きの日向五つ紋が付いた江戸褄模様(裾模様)を、
既婚女性の式服とする慣習が民間に広がり、
以来、この着物を『黒留袖』と言い習わしています。
黒留袖の生地は、主に一越縮緬(しぼが小さくかたく織った縮緬)が用いられ、
共八掛(裏地の裾部分に表地と同じ生地)が付いています。
本来は、白羽二重の着物(下重ね)を重ねて着ましたが、
近年では着やすくするために、衿や袖口、振り、衽を二枚重ねたように仕立てる、
比翼仕立て(付け比翼)にすることが多くなっています。
かけ襟の衿付けや袖口、たて褄や裾まわりに、
『星しつけ』を施すことがあります。
着物を仕立てるときの躾縫いには、
取る躾縫いと取らない『飾しつけ』があります。
最近ではこの飾しつけをしない場合もありますが、
昔は、きものの縫い目を落ち着かせるためにされていた躾縫いが、
細かく美しく施されていました。
この飾りしつけをするかしないかは仕立て屋さんにもよるようですが、
キレイな点線の様に一直線に等間隔で並んだ「ぐし縫い」は、
『星じつけ』ともいわれ、仕立屋さんの腕の見せ所でもあったのです。
この『星じつけ』は、留袖や訪問着、
振袖などの高級な仕立てに用いられていました。
黒留袖の模様の選び方は?
黒留袖の模様は裾だけにありますが、
縫い目で模様が途切れない絵羽模様になっています。
この模様付けには、染だけでなく、箔や刺繍を用いた、
吉祥文様や有職文様、正倉院文様など、
品格のあるおめでたいとされる模様から、
着る人の年代や個性によって、華やかさや優雅さ、
重厚さをポイントにして選びます。
色づかいが地味で、模様が小さめなもの、
また、
模様の位置が低めのものほど年配向きの黒留袖ということになり、
模様が大きめで華やか、色目が鮮やかで、
立て褄の上の方から模様付けされているものほど、
若い人向きということになります。
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黒留袖の帯や小物の選び方 着こなしはどうする?
きものと帯は、洋服とベルトの関係とは違って、
着物姿にとって、帯は重要なポイントとなる大切なものですから、
記念すべき大切な日に着用する礼装には、
特に帯を重視したいものです。
黒留袖には、
金地、銀地、白地の錦織や唐織の丸帯や袋帯を合わせ、
二重太鼓に結びます。
帯の模様は、
黒留袖の模様との調和を考えて選びます。
帯揚げや帯締めの色は、白または白金銀で統一し、
長襦袢や長襦袢の襟に付ける半衿も、必ず白を用います。
バッグと草履は、錦などの布製のものが一般的で、
お揃いのもので統一感を持たせたものがよいと思います。
きものの礼装で忘れてならないのが、末広(扇子)です。
末広は、金銀地両面で、黒骨(木の部分が黒塗り物)房なしを、
帯の左側に挿します。
帯揚げは白地綸子または総絞りで、金銀をあしらったものもあります。
帯締めも白が基本ですが、
白に金銀や金糸銀糸だけの平組の組みひももよく用いられます。
金銀振り分けになっている場合は、
水引きと同じで金色が心臓側(左胸)にくるように締めます。
長襦袢の半衿は、白の塩瀬が基本ですが、
11月から2月にかけては白の縮緬を用いることもあります。
また、夏物の黒留袖(6月と9月)は単衣もの、
盛夏用(7月と8月)は絽の黒留袖となりますが、
長襦袢の衿も白地絽の半衿を付けます。
だたし、昨今では夏物の黒留袖をお持ちの方は少なく、
結婚式場も冷房が効いているので、
袷の黒留袖を着ていても、目をつぶられているようです。
もちろん、夏物の黒留袖はレンタルもできますし、
その場合は、相応しい小物も一切揃っていることがほとんどです。
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あとがき
やはり着物は仕来りや決まりごとが面倒だと言われるかもしれませんが、
結婚式などのお喜びの席は、自分だけのものではありませんし、
列席されているまわりの方々に失礼があってはいけません。
特に新郎新婦にとっては掛替えのない一日なのですから、
ルールに添った形で臨むべきだと思います。