きものの種類を分けるとき、
素材の違いと染め方の違い、
織り方の違いがあります。
着物を作るときの素材にはそのようなものがあるのか、
その素材がどういう形で着物地となって行くのか、
技法にはどのようなものがあるのかをまとめました。
きものの素材の種類
きものに使われる素材としては、絹が代表的ですが、
木綿・麻・ウールなど、
さまざまな天然繊維が使われてきました。
現在では化学繊維も多く使われています。
素材それぞれの特徴や生地について知っておくと、
着物を楽しむときの世界が広がります。
絹
きものに使われる代表的な素材は絹です。
絹は、美しい光沢と軽くて柔らかく滑らかな風合いを持つと同時に、
吸湿と放湿、保温性に優れているなど、
衣服の素材とするのに優れた性質をたくさん持っています。
染色するにしても染まりやすいので、
美しい染織品を作るのにとても適しています。
絹が暖かいのは、絹の繊維そのものが熱を伝えにくいうえに、
繊維の隙間に空気がたくさん含まれているので、
肌に触れると温かみを感じ、
薄くても保温性に優れているのです。
欠点としては、水に弱く、濡れると縮んでしまったりすることや、
摩擦に弱く、毛羽立ちやすいことです。
また、日光に当たったり、時間の経過で色が変わりやすいことや、
手入れに手間がかかることなどがあります。
きものを作る絹糸は、蚕の繭から作られています。
蚕は桑の葉を食べて繭になり、
その繭を煮て取り出したのが絹糸です。
絹糸には、製糸方法により、主に生糸と紬糸に分けられます。
人間と繭の関わりには非常に長い歴史があります。
人が蚕の繭から採った絹糸を利用するようになったのは、
今から五千年前の中国で始まったと言われています。
日本では弥生時代の遺跡から出土した絹織り物が、
最も古いと言われています。
大化の改新の頃には、高い技術を持った大陸からの渡来人が、
養蚕や製糸、機織りの技術を伝え、
平安時代には全国に広まったといいます。
麻
麻は、通気性、吸湿性、即乾性に優れた素材です。
生地には独特の張りがあり、サラッとした肌触りがあります。
風通しが良いので汗をかきにくく、
汗をかいてもすぐ吸い取って乾きます。
また、水に強く、
多くのものは家庭で洗濯できるのも利点です。
張りがある反面、シワになりやすいのが欠点ですが、
夏の着物とするのに最適な特徴を数多く持っています。
細い糸で織った上等な麻織物を上布(じょうふ)と呼びます。
江戸時代に、木綿が一般的になるまで、
麻は季節を問わず庶民が着ていた素材でした。
木綿
木綿は肌触りが柔らかく、吸湿性に富み、水に強く、
さらに洗濯に耐える丈夫さを備えた実用性に富んだ繊維です。
染料にも染まりやすく、さまざまな色に染められます。
欠点としては、シワになりやすいことなどがあり、
きものにした場合、絹に比べると若干すべりが悪いことがあげられます。
木綿は室町時代に伝わり、日本の風土に適していたため、全国の広まり、
江戸時代中期には庶民の素材として広まりました。
ウール
羊の毛から作られた繊維がウールです。
ウールの長所は高い保温性です。
また、適度な吸湿性があり、型崩れしにくいのも特徴です。
家庭で洗濯ができて、お手入れが楽なことや安価なことから普及しました。
欠点としては、虫の害にあいやすいことがあげられます。
保管の際には防虫剤を忘れないようにしましょう。
ウールには、夏用に作られた薄手のポーラのような、
シルクを混ぜたシルクウールもあります。
モスリン(メリンス)もウールを使った生地です。
化学繊維
天然素材から作られる繊維に対して、
化学的に合成して作られる人造の繊維を『化学繊維』(化繊)と呼んでいます。
化繊は家庭で洗濯ができるなど、お手入れが楽で、価格が安価です。
化繊の代表的なものには ナイロン・レーヨン・ポリエステルなどがあります。
絹に比べて水や摩擦に強いのが利点である反面、
吸湿性が小さく、静電気が起きやすいのが欠点です。
絹に比べると、風合いも劣ります。
技術に発達で、欠点を克服したハイテク繊維も登場して定着しています。
きものの後染め 染の着物地
縮緬(ちりめん)
シルクの染の着物の代表的な白生地は縮緬です。
生地全体に細かい凹凸が平均してあり、この独特の凹凸を“シボ”といいます。
縮緬にはさまざまな種類があります。
大きく分けると、模様のない無地縮緬と、
生地に模様を織りだした紋縮緬があります。
いずれも経糸に生糸を、緯糸に強い撚りをかけた生糸(強撚糸)を使って織ります。
無地縮緬の代表格であるのが、シボの小さい一越縮緬です。
現在では、縮みにくいように改良されたシボの小さい三越縮緬が、
幅広く使われています。
これよりシボが大きい古代縮緬や鬼シボ縮緬などもあります。
文様を織り出したのが紋縮緬です。
代表的なのは紋意匠縮緬で、
振袖や訪問着、小紋などによく使われます。
艶やかな光沢のある紋綸子縮緬は、着物に使われるほか、
軽めのものは長襦袢にも用いられています。
また、別の糸を使って文様を織り込んだ縫い取り縮緬もあります。
縮緬の産地は、京都府の丹後縮緬と、滋賀県長浜の浜縮緬が有名です。
羽二重
羽二重は撚らない生糸を使うため、きめが細かく光沢があり、
滑らかで肌触りの良い生地なのが特徴です。
現在は、喪服や男性の黒紋付などの式服に多く使われています。
帯地や半衿によく使われる塩瀬羽二重も羽二重の一種です。
北陸などの日本海側の地方で多く生産されています。
きものの先染め 織りの着物地
紬
紬糸を使った先染めの織物が紬です。
太さの不均一な紬糸を使った織物なので、
ざっくりとした独特の味わいがある生地に仕上がるのが特徴です。
素朴で温かみがあり、やや硬めの風合いです。
繭を煮て柔らかく広げた真綿から、手で引き出して作られた紬糸を、
手織り機で織ったものが紬です。
本場結城紬では、今でも手作業で糸を引き出して紬糸を作り、
昔ながらの地機で織られています。
現在では手紡ぎで糸を作ることが非常に高価なため、
一部に機械を用いて作られた紬糸を使った紬もあります。
大島紬のように、紬糸を使っていないものでも、
紬と呼ばれているものもあります。
紬は、縞や格子柄のほか、糸を部分的に染め分けた絣の柄を組み合わせて、
模様を織り出すものがあります。
糸は化学染料や、藍・紅花・刈安などの植物染料を使って染めています。
紬は全国各地で作られていて、
それぞれローカルな特色を持っています。
有名なものに、結城紬と大島紬がありますが、
ほかにも、山形の置賜紬、新潟の小千谷紬、塩沢紬、十日町紬、
長野の信州紬、沖縄の久米島紬など、
さまざまな紬があります。
御召
御召は「御召縮緬」の略で、縮緬の一種です。
徳川十一代将軍の家斉が御召を好み、
貴人のための衣類『御召料』が略されて、
御召と呼ばれるようになったと言われています。
普通の縮緬は白生地で、染め加工をする後染めの材料ですが、
御召は、糸を染めてから織る先染めの織物です。
生地の表面に細かい凸凹があり、これもシボと呼びます。
このシボを出すために、
緯糸には強く撚りをかけた生糸(強撚糸)を使って織られます。
張りがあり、シャキッとした風合いです。
御召にはたくさんの種類があります。
縞を織り出した絣御召や紋御召、縫取り御召などがあり、
柄や風合いも様々です。
御召は大正時代から昭和三十年代にかけて流行し、
多様なものが作られました。
現在は、京都の西陣御召、新潟の本塩沢(塩沢御召)、
山形県の白鷹御召などが代表的です。
あとがき
古代の人たちがどのようにして
織り方や染め方を発見したのだろう。
素材はどこから見つけ出したのだろう。
知れば知るほど興味がわいてきます。